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once 22 秘められた過去(2)

***22***

朝子は知らなかっただろうが、彼女といつも一緒に帰っていた俺への風当たりは相当強かった。最初のころは、毎日同級生や上級生らに絡まれた。

朝子は、そのつんとした外見から、容易に声をかけがたい雰囲気だったから、潜在的に彼女に好意を抱いていた男が多かったのだろう。

いや・・・男だけではない。あろうことか俺のクラスの女ども数人が、朝子のファンクラブなるものを結成していた。

そして、ファンクラブ会長のさくらが筆頭になって、「有芯君、演劇部に入ったんでしょ?! 川島先輩のサイン、もらってきて!」と迫るものだから、朝子は俺の彼女だ、などとは口が裂けても言えない。こんなバカ女と血が繋がっていることが嘆かわしかった。

その上、朝子は思ったことをすぐ口に出して言うから、知らず知らずのうちに恨みをかっていることも多かったのだ。

俺は、朝子への恨みや俺への嫉妬でケンカを売ってくるやつらをぶっ倒すこともあれば、よってたかってぶっ倒されることもあった。目に見える傷でも作ろうものなら朝子は本気で心配してくれたが、俺は自分の力不足を指摘されたようで、それが屈辱だった・・・。そして、絶対に、彼女との付き合いの裏でおこっている事実を告げることはしなかった。

朝子は俺と二人きりになった時だけ、『厳しい部長』の仮面を脱ぎ、俺に甘えてくれた。そして他のやつらには絶対に見せないであろう優しい顔で、俺の(今思えば)くだらない悩みを真剣に聞いてくれていた。

「へー、剣道部の先輩が、ストーカーねー。有芯はすっごくもてて大変だね。私なんか誰にも告られたことないよ?」

お前の場合、隠れファンが多すぎるんだよ!と思ったが、言えるはずがない。「・・・とにかく、そいつが声かけてきても、相手にするなよ?」

「うん!」そう言って、朝子は何か言いたげに俺を見つめ、何も言わずにキスをし、俺を強く抱き締めた。

一度だけ、学校をサボって朝子を抱こうとしたことがある。

俺の部屋で制服を全部脱がせ、小さな形の良い胸に口付けると、震えながら俺を見上げていた彼女。

俺は、朝子ほど頭のきれる女性を・・・何を言われても、物怖じせず言い返す、そんな勇気を持った強い女を、他に知らない。(ただ、見かけによらず天然で鈍感なところが玉に傷だが)

だから、そんな彼女が震えているのを見た時、朝子の弱々しい部分を、俺が受け止めて守ってあげよう、震えがおさまるまで、彼女を抱くのはよそう、と思ったのだ。俺は遊び人なりに、朝子を大切に想っていた。たとえ、口には出さなくても。

しかし、それにしても彼女が招いた風当たりの強さに、俺はいささか参っていた。

そんな時だ。あの事件が起こったのは。


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